記2001年10月30日 怪物登場!その1
 

 先日、萩焼きの元祖である坂窯の12代目当主、坂高麗左衛門先生が10月20日のASCミーティングに参加されるとの連絡が入った。
 
 先日の萩での江川工房では、一方ならぬお世話になったので何かお返しをしたいと考え、ASC山本会長とも相談して今まで聴かれた事の無いであろうスピーカーを鳴らす事にした。
 
現在の店では狭すぎて設置できず、新店舗が出来るまでと倉庫に収めていた「とっておきのバイオノール」である。
 
 幅2.5m 縦1.8m 奥行き1.2mという怪物を2台聴ける状態にするには、大型スピーカーを3セットは片付けなければならない。

 2日掛かりで設置はしたものの、しかしあらためて見るとでかい!
 
 とりあえずDENTEC300B-Singleに接続して鳴らしてみたが、ん〜?まともな音ではないぞ、どこか位相が狂っている。
 
 色々チェックする内に、ウーハーからターミナルまでの配線が片方そっくり逆位相になっているではないか!
 
 しかも、製造当初からそうなっていた状況なので、2度ビックリしてしまった。
 電気的知識の無い前のオーナーは、数百万円も払ってこんな状態で聴いていたのかと可哀想になり、同時に、こんな状態のまま設置していた無神経な某販売店に腹が立ってきたのである。


 

記2001年11月6日その2
 

 いよいよASCミーティング当日がやってきた。
しかし、バイオノールの中低音の繋がりがあまり良くない。
長い間倉庫で眠っていた所為か?試聴位置までの距離が近すぎる所為か?
再着磁したばかりの所為か?ネットワークの所為か?
 
 とりあえず音像がバラツクのを無視し、ウーハ-を逆相接続にして急場を凌ぐ事とした。

 早々に気の早いメンバーたちがやって来て、口々にウワーでかいと叫ぶ。その内坂先生が来店されたが、大きさにビックリされる様子もなく試聴が始まった。
 
 まず、先生のアトリエで録音したCD土と水だ!
3曲目のサマータイムでは、セミの声がちゃんと聞える。まだまだ大雑把な鳴り方だが、可能性は見える。JBL375クラスの外磁型ドライバーを5dbしか落としてないのだから、システムの能率は優に110dbはある筈。高能率ユニットは、僅かな部品の癖もあからさまに出してしまうのである。しかも、当時の配線材は被覆が朽ちてしまって、時々ショートする様な状態でこれだけ鳴れば合格だ。
 
 その時、私はお得意の空芯コイルネットワークを作って入れ替えようと決心した。

 先生、これはまだ60%も鳴っていません。仕上がった時点で、アトリエで鳴らして見たいですねと言う私に、うんうんと応える先生の目が輝いていた。
 
 なにしろ先生のアトリエは広い、田舎の小学校の体育館くらいはあろうか?
しかも天井が高い20mは有るだろう。
以前、何故焼物にこんな大きなスペースが必要なのですか?と質問したら、大きな壁用の焼物を作った時に、中二階から出来具合を見る為なんだと応えが帰ってきた。
 
 しばらくして、ASC山本会長が難しい顔をしてウーハ-のフロントホーンに頭を突っ込んでいる。どうやら、逆相接続に気付いた様だ。
大型スピーカーと格闘した経験の有る人でないと、何かチョット変だな?程度で終わってしまうのに、音だけでポイントを探り当てるとはさすが会長だ。


 

記2001年11月7日その3
 
あまり鳴っていないバイオノールの試聴は早々に切り上げ、食事の後9人でお楽しみのミンガスへと繰り出す。
 
挨拶の後に、まずは萩の江川工房で皆が作った焼物の話になった。(江川工房の様子は、
ASCゴウドさんのホームページ「ASCだより」をご覧下さい)
井上先生が坂先生のレクチャーでロクロを使って作られた萩焼きの器は、素人の私が見ても良い色が出ている!しかも、作った時はラーメンどんぶりくらいの大きさだったのに、焼き上がりは20%程小さくなっており、先生、丁度蕎麦を食べるのに良いですねとの私の言葉に、うーん福井へ持って行って塩蕎麦を食べたいねと嬉しそうに応えられた。萩焼きは使う程に味が出てきますから、これからは皆さん次第ですと坂先生。私の駄作も使い込めば良くなっていくのだろうか?
 
 そうこうしている内に、SAXの藤井さんがイソイソとやって来た。こちらは湯呑だが、本人はただ手を添えていただけで殆ど坂先生の作品であり、素人目にも立派なものだ。
 
 坂先生、家宝にしますから裏に名前を書いて下さいと藤井さん。
おまえ売ろうと思っているだろ!との井上さんの言葉にバレタカと応える。そんな楽しい会話が続いた。

 そこで例のCD(土と水)が登場!なんせ一曲目の12thブルース(副題 坂先生に捧げるブルース)は、井上先生作曲。坂先生に敬意を表して付けられた曲名なのだから、本人にとってこれほど嬉しい事は無いだろう。
 3曲目のサマータイムではセミの声もちゃんと聞え、当時の暑苦しい様子が伝わってくる。ライブも最初からエンジン全開で、店の中は皆の満足な顔で一杯だった。


 
記2001年11月9日怪物登場!その4
 
 FASTの発売元 出水電器 島元社長より11月4日(日)に来店されると言う連絡が入った。
バイオノールをFASTのアンプで鳴らして見たいとの事。
 
 早速、ウーハーの位相を元に戻してプリメインのT1-Xを接続した。
 よく高能率なビンテージスピーカーには管球アンプしか鳴らないと思っている人がいるが、私はそうは思わない。真空管とかトランジスターといった増幅素子の差よりも、作り方の差の方が大きい事は、作り手の立場で判っているからだ。
 
 しかし、能率110dbとなるとかなり厳しい条件だがはたしてどうだろうか?
 
 ところが、意外にすんなり鳴ってしまったのである。低域の解像度やバランスに不満は有るが、目立った癖が感じられない。その不満も、DENTEC UA1を接続しアンプ側をフルボリュームにするだけですんなりクリアーしてしまった。ASCのメンバーに連絡し、当日までそのまま鳴らすことにした。
 
 しかし、後日強敵が現れた。
オーダーしていたMARANTZ PROFESIONAL PA02が入荷してきたのである。
かの鈴木氏がデザインしたと言われるこのアンプ、私は音も聴かずにオーダーした。何故かと言うと、私が日本の音響エンジニアで信頼できるのは彼一人であり、今までの彼の作に全く外れが無かったからである。(長くなるので、彼の音楽的センスと今までの経緯については、お奨め商品で語る事にする)
 
 音出しした瞬間!これは凄いと唸った。
 能率100dbのスピーカーを、量産メーカーのアンプがいとも簡単に鳴らしてしまうのである。
100万円を超える名ばかりのハイエンドアンプには絶対に太刀打ちできないライブの世界が眼前に広がった。しかも定価25万円なのだ!
 
 島元さんが来られる当日、敬意を表してT1-Xに戻したが、強敵が現れている事を知らせなければなるまい。
 
 試聴会が始まり、FASTのセパレートはT1-Xとは異次元の世界を堪能させてくれた。クライオ真空管の差も物凄く大きかった。しかし、私は素直に喜べなかったのである。いつPA02の事を告げようか?そればかりを考えていた。それは、ASC山本会長の一声(島元さんマランツも聞いて見ましょうよ)によっていとも簡単に告げられ、島元さんの一声(良いですよ)によってアンプが変更され、試聴モードに入るまで5分も掛かっていない。
 
 いったい私は何を悩んでいたんだ?しかも、島元さん曰くこのアンプ良いですね〜とのたまう。自社のアンプの試聴会をしている最中に他社のアンプを誉める人がいるだろうか?良い物は良い、悪い物は悪い、それが私のスタンスですとあっさり言い切ってしまう島元さんに、器の大きさを感じたのは私だけでは無いと思う。
 
 改めて聴いてみると本当にどちらも良く鳴る。強いて差があると言えば温度感だ、FASTはHOT MARANTZはCOOL。
 
しかしそれは比べなければ気にならない程度の差なのだ。
どちらも、センスの良い技術屋が音を聴きながら入念に作り上げた逸品であった。

 
記2001年11月16日 怪物登場!その5
ピットレーサー他 
 一通り聴いてもらったバイオノール。
 さて、どう料理してやろうか?朽ちたケーブルを交換するのは後回しにして、ネットワークを入れ替える事にした。
 
 2φ空芯コイルにコイルタップ式アッテネーター。これは私がアマチュア時代から煮詰めた定番だ。
 当時はコイルまで自分で巻いていたが、今はその気力は無い。20年以上前であるが、音研タイプのマルチダクトにALTEC604-8Hを入れたシステムを一体何台作った事だろう?
 その時に蓄積したノウハウは、現在でもちゃんと通用しているし、他に良い方法は見つかっていない。
 
 余談になるが、今は有名になっておられる謀販売店が
その音を気に入って、私の仲間が作った物を手に入れたが、結局物にならず処分したらしい。
その時の台詞がお笑いで、メーカーにしかスピーカーシステムは作れないとのたまったそうな。
ホーンの鳴きまでコントロールしたノウハウの固まりであるそのシステムを、簡単に真似できる筈も無く、自分のセンスを棚に上げて、なんとも滑稽な話である。
その方が今は物作りに励んでおられ、信者も沢山おられると言うから、さらに滑稽ではないか。
 
 話を元に戻そう
 
クライオネットワーク と言う訳で、久しぶりに現れたバイオノールというツワモノ相手に自信たっぷりで挑む事にする。

 現在のノウハウなら、当時を軽くクリアー出来るのは間違いない。まず各パーツをクライオ処理に出す事にしよう配線は勿論2φ銀単線だ。
 
次のASC定例会11月17日まであと一週間、エージングを考えるとぎりぎりに出来上がった。
 
 さて、音は?
 
例のごとく低音が膨らんでメチャクチャなバランスだ。他の者に、エージングの効き方で音がどの様に変化するか体験する様指示し、他の仕事に移る。
 
 ところが、8時間後に聴くと既に低音が締まって来ている。どうやら、クライオのご利益がここにも現れた様だ。

■つづく■


 

 
 ASCの定例会11月17日が近づいた。
 今回は、A&Vビレッジでも有名なライター村井さんも東京から参加されると言うし、神戸からも参加組がある。
 ここのところASCの活動は活発で、イベントが目白押しだから皆疲れているはず。何としても、バイオノールで疲れが取れる様な音を出さなければなるまい。
 
 低音の解像度を増す為にマランツPA02を2台バイアンプ接続とし、入力機器をTRC-A&ピットレーサーと入れ替える。
 しかし、情報量は圧倒的に増えたものの、まだバランスが崩れている。エージングが終わっていない音だが、当日に間に合うだろうか? 責任重大だ!
 
 いよいよ定例会前日となったが、午前中はまだ村井さんや山本会長に聴かせられる音ではない。しかし、午後から突然、本当に突然ス〜と変化したのである。これで良い!200時間のエージング終了がこれほど劇的にやってきた事は無かった。やはり、高能率とは恐ろしいものだ。
 
 当日がやって来た。
 村井さんも到着し、試聴が始まる。まず、定番(土と水)だ、おお〜音色が非常に正確になっている。それと低音のスピードが速いねと山本会長。すかさず、見かけに寄らず細かい音が出ますねと村井さん。
 
 その後、このCDは良くメチャクチャな音で鳴るんですけどと、とっかえひっかえCDをかけまくられた。詳しいレポートは村井さんがどこかでされるだろうから、控えるが「図体から想像するより随分マトモナ音ですね」が印象的だった。
 
 バイオノールを倉庫から出してきて1ヶ月半、久しぶりにエキサイティングな時間を過ごした様に思う。これで萩の坂先生も十分満足されるだろう。
 
 アトリエで鳴らすのは来春になるだろうが、それまで分解してまた倉庫に仕舞っておこう。
 こんな怪物貸してくれなんて人もいないだろうから………………………

●終わり●




 


 

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