A.S.Cとは

2002/2/13

ASCとは広島のアコースティックサウンドクラブの事である。音楽とオーディオを愛する人達が集まり、年会費1万円を募っているのだが、その資金はライブを聴き、録音する為に使われるのである。今では有名になり、全国にその会員が沢山いるという。

昔はオーディオクラブがあちこちにあり、それぞれ活発に活動していた様に思う。しかし、昨今はどうだろうか?私が知らないだけかも知れないが、あまりその様な活動を聞いたことが無い。しかも、最近全国からASCと同じ様な活動をしたいとの申し入れが有るそうだ。
 
 では、何故ASCがこの様に有意義なクラブになったのか?を考えて見たいと思うので、これから始めたいと思われている方があれば、参考にされたい。
 
 それは、約8年くらい前にお客様から相談を受けた事に始まる。その方は消防署に勤めておられ、職場の仲間でオーディオクラブを作っておられたのだが、殆どの方が本当の楽器の音を知らずにオーディオをやっていると言うのだ。コンサートに行ったとしても、クラシック以外はPAを使った音ばかりで、そんな音を聴くくらいなら、自宅のオーディオ装置の方が余程ましだと言う。
 
 そこで私は提案した。私が懇意にして戴いているミンガスと言う店で、まずPAを通していない「生のジャズ」を聴いて見たらどうだろうか?
 
 その上で録音し、それを自宅の装置で聴いてみれば、色々な問題点が具体的に解る様になると思うんだが.…
 
 その話に彼は目を輝かせて乗ってきた。
 
 ミンガスの井上先生にその事を相談すると、快く引き受けて下さった。わざわざ、お休みの日曜日に店を開放してくださるというのだ。
 
 ミンガスは繁華街にあるので、日曜日の昼間なら静かで良いだろうとの配慮を、ありがたくお受けする事にした。しかし、プロのミュージシャンに対してノーギャラと言う訳にも行かないので、参加者から数千円の参加費を募ったのである。
 
 日程が決まった時点で、出来るだけシンプルな録音方法を取る事と決め私はDCマイクの製作に取り掛かった。丁度、展示導入していたMARENTZ CDR-1(95万円)にはライン入力しか無く、コンデンサーマイクをラインレベルまで増幅する為のヘッドアンプが必要だったのだ。
 
 凝り性の私は、どうせ作るのならとFETによるDCアンプとし、銀線で配線して何とか間に合わせた。(現在ASCで使っている物の原型となる)


2002/2/15

いよいよライブ当日がやってきた。参加者は約20名だ、ミンガスのカウンター席には10人しか座れないので、残りの10人はその後ろに立って聴いてもらう事になる。
 
 ベースは勿論井上さんでピアノが吉原さんのDUOだ。
 
 その当時の井上さんの楽器は現在の物とは異なり、かなりガッツのある音だった事を覚えている。ピアノはカワイのアップライトで上蓋は5cm程度しか開けていなかった。マイクを自由にセッティング出来る訳もないので、左のベースまで1m弱、右のピアノまで1.5mとかなりオンマイクで取る事となった。
 
 演奏が始まってベースが唸った瞬間、皆が驚きの表情を見せたのを私は、今でも覚えている。
 
 それは、普段自分たちが聴いているベースと余りにも音が違ったからだ。それはそうだ、現代のベース弾きは超有名な人でも皆んなコマにマイクを付けて弾いているんだから、楽器+マイク+アンプ+スピーカーのの音を聴いているにすぎない。まして、軽く弾けば大きな音が出るのに慣れてしまって、指で引っ掛けて思いっきり弾くなんて事はしていないのだ。
 
 井上さんに後で聞いた話だが、ベースの前後につっかい棒の様に入っている「魂柱」がビーンと鳴る音は、軽く弾いたのでは出ないのだそうだ。我々が良く聴いているジャズの名盤は、指で引っ掛けて引いていた時代であり、現代の「生」とは元から違うのだ。
 
果たして、録音は?
 
 それが、大成功だったのである。この録音は、フィリップスLHHシリーズCDプレーヤーのデモに良く使われたからご存知の方も多いだろうと思う。


2002/2/27

録音は成功したが、参加者にそのソフトを配布する訳にはいかない。なぜなら、JASRACの規制があるからだ。
 
 そこで、マスターを元に欲しい人が自分でコピーして貰う事にした。当時は生板が3千円もしたので、市販ソフトよりも高くなってしまうが、参加者には貴重な確認音源となった筈。参加者全員、その後のオーディオライフに大いに役に立った事だろうと思う。
 
 我々が常に聴いているJAZZ。
 
 50年~60年代の名盤と言われるそれらは、演奏者は勿論の事、録音エンジニアの素晴らしい耳と感性で仕上げられており、現代のソフトとは一線を画している。なにより、現場の空気が伝わって来ると思うのは私だけでは無い筈だ。
 
 しかし、録音技術が発達した現代の物はどうだろう?スタジオ録音では各楽器回りの空気感や温度感がまるで違う物が多いではないか…
 
 それらが解る程の装置で聴かれる事を想定していないからなのか?録音エンジニアがそれ程の装置を体験した事がないからなのか?聞けば、それぞれを別の場所と別の時間に録音し、コンピューター制御でミックスしているものが殆どだと言う
 
 ライブ録音であっても、各楽器にマイクをセットしミキサーでコントロールする手法だ。ディジタルミキサーであれば、それぞれの時間(=距離)までコントロール出来るから、それで良いと思っているのだろうか?
 
 しかし、ディジタルであるが故の弱点もある筈だ。周波数が変われば音速も変わるのだから、各楽器の音階が変われば調整する時間も変
わる事になる。仮に、技術が進んでそれが可能になったとしても、そんな神憑り的な調整を出来る人間がいるのだろうか?
 
 録音エンジニアーには申し訳無いが、私には我々の録音方法の方が数段優れている様に聴こえるのだ。


2002/2/28

しかし、超シンプル真剣勝負の一発取りには意外な問題が潜んでいた。それは録音される側の問題点である。
 
 井上先生程のプロのべーシストであっても、自分は音が終わってから次の音を出している積りなのに、音がかぶっていたのが解ったと言うのだ!演奏している本人さえ気付かない程の僅かなタイミングのズレさえも、記録していたのである。
 
 その後、この録音を色々な人に聴いてもらったらのであるが、演奏家以外の反応は、音は良いけど……と言う感想が大半であった。
 
 逆に演奏家の方は、こんなところまで記録されるのは怖いと言う…。つまり、常に超一流ばかりを聴いている人たちには演奏が不満で、かなりのレベルの演奏家であっても、空気まで取られるのは怖いと言う事なのだ。
 
 我々は音源を確認するために録音したのであるから、音さえ良ければそれで良かったのだが、現場に居なかった人には面白くない録音と言うことだったのだ。
 
 しかし、当社の試聴室の様に装置がまともであれば、井上さんや吉原さんのテクニックの素晴らしさが解るのである。つまり、間合いがちゃんと取れているのが再生されるのだ。
 
 自分の装置が癖だらけなのを棚に上げて、勝手なことをほざくなと私は言いたかった。
 
 それからは消防署の連中とは疎遠になり、現在まで付き合いは無い。多分、確認音源の意味を理解できなかったのであろう。
 
 そこで、私はお客様から有志を募ってASC(アコーステックサウンドクラブ)を立ち上げた。
 
 年会費一万円でライブを聴き録音する事・月に一回集まって、情報交換と音質改善のレクチャーを行おうというもので有ったが、いざ集まってみると、自分の知識をひけらかす者、持っている装置を自慢する者と、おおよそ消滅してしまった他のクラブと同様な内容となってしまった。
 
 録音を行っても、その意味を本当に理解していないのだからしょうがない。一人減り二人減りと参加者は減る一方となったのである。


2002/3/11

もう6年にもなろうか。遂に倦怠期のASCに喝を入れる人物が現れた。恰幅の良い紳士が店に現れ、色々話をしている内に試聴室で音を聴いてもらう事となった。
 
 一般のソフトを聴いてもらい、どうやら他店との違いを認識された様なのでミンガスでの録音を確認音源として、様々な開発や調整を行っていると言う話をした。そして、その録音を聴いた途端、その人は目を輝かせ、どうしてもそのソフトが欲しいと言うのだ。
 
 それでは、ASCに入会してください年会費が1万円です。と告げたのだが、その人はその場で1万円を支払い、そのソフトを持って帰ろうとしたのだ。
どうやらソフト代だと勘違いしたらしい。
 
 とにかく無二のオーディオ好きで、私にはどうでも良い様な僅かな癖さえも見逃さない凄耳の持主である。聞けば2代目社長で、本業が忙しいのに寝る間を惜しんでオーディオをやっていると言うのだ。
 
 新開発の試作品を試聴して貰うと、忙しい時間を割いてレポートをビッシリと書いてこられるのだが、それが非常に正確であり的を射ている。
 
 又、わざとこれはどうかな?と言う物を貸し出しすると、非常に手厳しい答えが返ってくるのである。そこで、始めて自分とオーディオ的センスが一致する人物に出会ったと感じた。
 
 私は良くオーディオを食べ物に例えて話をする。美味いか不味いかはだれにでも解る。どれくらい美味いかどれくらい不味いかが解らなければ意味がないのだ。
 
 たとえ有名店であっても、人にお金を払ってもらっても腹が立つ様な店も有れば、本当にこの金額で良いのかと言う様な店も有る。広島は支店都市だから、余計に腹が立つ店が多い様に思うのは私だけだろうか?
 
 話を元に戻す。その後その人は強力なリーダーシップを発揮した。月1回の定例会にも必ず参加し、確認音源の素晴らしさを懇々と説かれる熱心さに、私はこの人にならASCを任せられると確信した。そしてASCの活動に一切口を出さない事に決めたのである。
 
 その人こそ、A&Vビレッジでの執筆活動によりASCを今や全国レベルで有名にした現会長「山本紘市氏」その人なのである。
 
 この先は、会長がA&Vビレッジに書かれるであろうから、私は筆を置くことにする。

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