5000本突破


2001/12/17

まず、何故当社がエッジの張替えを始めたのか書かなければなるまい。
 
 それは、1991年10月 中古のタンノイ アーデンを22万円で販売した事に始まる。よくチェックして完動品で買っていただいたのだが、3ヶ月もしない内にお客様から連絡が入り、エッジに穴が空いたと言う!如何に中古と言えども、たった3ヶ月で使えなくなったのでは話にならない。
 
 早速お客様の所へ出向いて修理をと言う話になったのであるが、コーン紙まで含めた修理となると部品代だけで8万円も掛かってしまい、大赤字になるが仕方ないと諦めていた。

しかし、そのお客様は、安く譲って貰ったのだから音さえまともになれば良いと言って下さったのである。その時点では本当に有難いとは思ったのだが、後で考えればさてどうしたものか?

帰り道に色々考えながら走っていたら、オートバックスの看板が目に入ったのである。そうだ、昔は鹿革のエッジが有ったじゃないか!早速、洗車する時に使う白色のセーム革を買って帰ったのである。
 
 早速、昔のユニットを思い出しながら、試行錯誤の末、真っ直ぐに貼ってみた。これが大当たりだったのである!HPDユニット特有のボン付きが無くなり、中低音の音階がハッキリしたではないか!革は柔らかくある程度伸びるので、ハイパワーで鳴らさないのならこれで大丈夫だ。
 
 早速、お客様に連絡し、勇んで配達に伺った。その時のお客様の顔は10年経った今でも忘れない。修理出来たどころか、音まで良くなったのだから本当にビックリして喜んで貰えたのである。
 
 気を良くした私は、早速セーム革エッジ張替えのサービスを開始したのである。当時は口径に関係なく、一律1本3万円で受付けていたが、それでも全国からどんどん依頼が有った。驚く事に、音が良くなるのならと1本数千円のダイヤトーンP610を預けられたお客様もおられ、お客様の価値観には色々有る事を、その時に悟った。
 
 当初はノウハウを蓄積する為に、私だけが作業に当たっていたが、1000本を突破して作業を従業員に任せられる様になった時点で、わざと「1000本突破」と雑誌に書いたのである。

その途端、あちこちで名乗りを上げる物真似業者が相次ぎ、予想はしていたもののいささかビックリした。
「全くこの業界は節操が無い」
単純に掛算して、こりゃ~儲かるとでも思ったのだろうが、そうは問屋が卸さない。

こちらはノウハウを蓄積し、既にロールを付けて貼っていたし、作業効率も上がっているので、待っていたと言う様に思いっきり値段を下げてやったのである。それで、大半の業者は姿を消した。しかし、今度はウレタンの方が良いだの合成材料を開発しただのと言うのが現れた。
 
 それならばと、新品の同じユニットをそれぞれの業者に修理に出して音を比べて見る事にした。
 
 結果は?それは全く比べるまでも無かったのである。結論から言うと、化学合成材料には特有の癖が有り、音楽にとって一番大切な、中低音の解像度が全く話にならないくらい違ったのだ。
 
 当分の間店頭で聞き比べ出来る様にしていたが、余りの差にあほらしくなって止めてしまったのである。


2001/12/18

音質には絶対的な自信がついたものの、まだ問題点が残っていた。それは、天然物である鹿革ゆえの根本的な問題である。つまり、大きさも厚みもまちまちであり、2本を同じ状態に仕上げるのが難しく、再調整が後を絶たない。

ところが、雑誌を見た奈良のある業者から連絡が入った。その会社は革製品の専門工場で、こちらのニーズに合わせて様々に加工できると言う。早速、工場を見学させて貰う事にした。
 
 大型機械が沢山並ぶその工場は、私の目には宝の山に見えた。
希望の柔らかさにドイツ製薬品でなめす機械、
薄い皮をさらに薄くスライスする機械、
変質を防ぐ為に樹脂を封入する機械と、説明を聞く毎に私は小躍りした。
これでやっとお客様に安定したサービスが提供できる!しかも作業効率が格段に上がる!

46cmのユニットまで1枚で張り(それまでは4分割で張っていた)湿度や温度の影響を出来るだけ少なくして欲しいと要望し、最初のオーダーをして帰ったのである。

待つ事2週間、それは本当に素晴らしい出来上がりだった。新技術ロール成型で早速張替えて見たが、音質はさらにクリアーになっていたのである。直ぐに雑誌に発表したら、物凄い反響で電話の応対に追われる程忙しくなってしまった。
 
 そうこうしている内に、大手音響メーカーより問合せが入った。自社製品を大事に使って頂いている、お客様へのサービスとして取り入れたいが、サンプルをテストしたいとの事である。
 
 早速預かったユニットを仕上げて技術部門に送ったらこんな回答が帰ってきた。「不思議です計測データーには変化が無いのに音質は確実に良くなっている」それからは全国のサービスセンターからどんどん送られてくる様になった。
 
 そこで私は、メーカー公認のお墨付きを戴きたいと申し出たが、むげなく断られてしまった。例え音が良くなるにしても、当初の材質と違うと言う事は、自社を否定する事になると言うのである。そんな解釈しか出来ないのか?皆サラリーマンだから何か有った時に責任を追求されるのが嫌なんだろう。
 
 それならもう良いと諦めてしまった。


2001/12/19

タイトルを5000本突破としておきながら、間抜けなことに昨日3冊も溜まった記録ノートからカウントしてみたら、なんと11月20日の時点で、5900本を突破しているではないか!この調子だと年内に6000本突破は間違いない事が判明した。

それはさて置き、当社では3年前よりエッジ張替えに加えて再着磁をお奨めしてい
る。導入するきっかけとなったのは、山水電機がスピーカー部門を廃止する時に、廃棄処分される事になった着磁機であった。
 
 あるお客様より、送料のみ負担すれば手に入ると連絡が入ったのだが、丁度その時は忙しくて即答しなかった。しかし、1週間後に改めて連絡してみたら、既に行き先が決まったと言うのだ。ガッカリした事は言うまでもないが、何でも著名な評論家がらみで行き先が決まったと言うから余計に腹が立ったのである。
 
 その後すぐに再着磁云々の広告が出たので、成る程そう言う事だったのかと私の負けん気に火が付いたのは言うまでもない。その着磁機はアルニコ磁石にしか対応していないと言っていたから、早速私は他の磁石も着磁出来る機械を物色し始めた。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありとは良く言ったもので、以前から親交を深めていた江川三郎先生に相談してみたら、直ぐにそのメーカーを教えて下さったのである。早速東京へ飛んで説明を聞き、その日の内にオーダーして帰った。

アルニコは勿論、フェライト磁石まで対応する特注の着磁機は、高級普通乗用車一台分と値段が張ったが、そんな事は私にとって然程問題では無く(お金が余っていると言う訳では有りません)お客様に新しいサービスを提供できる喜びの方が大きかったのである。
 
 3ヵ月後、チャーター便で到着したその機械は狭い店内に何とか収まった。
オーダーする時に、ネオジュームマグネットまで着磁出来る仕様にするかどうが迷っ
たのだが、更に大型となる為断念した。どうやらこれで正解だった様だ。

それからと言うものは、データー収集の為に毎日再着磁に明け暮れた。古いビンテージスピーカーは勿論の事、新製品までどんどん実行してみたら、なんと恐ろしい事実が判明したのである。

1:新品の高級スピーカーで有っても2本の磁力が揃っている物は殆ど無い。
(着磁機のメーカーへ問い合わせたら、殆どのユニットメーカーは作業効率を上げる為、一度に複数個処理しているのが現状との回答が有った)
 
2:永久磁石とは名ばかりで、使用頻度と入力パワーに比例して磁力が落ちている。
 
3:5%磁力が低下すると誰の耳にも解る程S/Nとエネルギー感に影響する。
 
 私の知る限り、こんな事が業界で問題にされた事は只の一度もない。しかも、低価格な物にコストが掛けられないからそうなっていると言うのならまだしも、単売されている高級ユニットまで新品でその有様と言うのは、消費者をバカにするのもいい加減にして欲しいと思うのである。


2001/12/25

最近2度目3度目の張替えに入ってくるユニットが目に付く。勿論、セーム革エッジならばその様な事は起こらず、半永久的に使えるのだが、当社が革エッジ張替えを開始した頃にウレタンで張替えられたお客様は既にエッジの寿命が来ているのである。
 
 湿度の高い地下室などで使われた物は、驚く事にたった3年でボロボロになってしまう程劣化が早く、まったく気の毒としか言い様が無い。物を大切に使われるお客様は、身を持ってそれを体験されているので、ウレタンエッジを勧める様な店では2度と買い物をされないであろうと思う。
 
 それにしても、今だにウレタンは安定しているだの音質上オリジナルの通りにするべきだのと宣伝している業者がある。他の材質では中古で手放すときに価格が下がると言うところもある。しかしそんな事は絶対に有り得ない、現に当店では中古品でも革エッジ張替えや再着磁などチューニングした物の方が足が速い。音を聴かれて納得して買って行かれるのである。
 
 再度申し上げておこう「ウレタンは製造直後より化学変化を起こして劣化し、音もそれに伴い変化する」
 
 もう一つマルチウエイスピーカーにとって重要な要素がある。それはネットワークだ。皆さんは同じスピーカーなら同じ音がすると解釈されているだろう。販売店や評論家諸氏も、そう思っているに違いない。
 
 私は声を大にして宣言する!「現代スピーカーの大半はそうではない」
 
 音場を正確に再現しようとすれば、位相に影響するコイルは勿論の事、コンデンサーまで方向性を管理しなければならないが、現代のスピーカーでそれを管理されている物は殆ど無いと私は言い切れる。なぜそうなってしまったのかは私には解らない。しかし、ハッキリ言える事は、手作業で物を作っていた時代には管理されていた事だけは事実なのだ。
 
 世に高級スピーカーは沢山ある、しかしそれが1本ずつ音が違うとしたらどうだろうか?2本で250万円もする物がスピーカーとスピーカーの間にしか音場が出なかったらどうだろうか?
 
 それを外部からのコントロールで音場云々と言う様な音で鳴らそうと思えば、もう誤魔化す方向に持っていくしか無い筈だが………


2001/1/22

最後に、近い将来の夢を語りたいと思う。それは現在の店舗では手狭で、やりたくても出来なかった事だ。
 
 最近良く、お客様がホームページを見られてスピーカーのチューニングを希望され、わざわざ遠方から車で持ってこられる事がある。大事なスピーカーを預けるのだから、どんな会社か確認したいと言うのもあるだろうし、運送会社の手荒な扱いを恐れての行動でもあるだろう。
 
 その様な熱心なお客様にはまず試聴室で異次元の音質を確認して戴き、ご愛用のスピーカーがチューニングでどう変化するのかを実感された上で、安心して任せて戴きたいと思うのである。
 
 エッジが破れていれば話は別だが、新しいスピーカーのチューニングの場合には、まずそれを試聴室のシステムに接続して聞いて頂ければ、それにどの様な問題が有るのかを的確に説明できる。その上でチューニングを開始し、2週間後にエージングまで含めて仕上がったものを再度聴いて頂くのである。
 
 一見無駄な様に思えるこのやり方が、実はそのお客様のオーディオライフに大きく役に立つのである。なぜなら、そのスピーカーを良い状態で鳴らせばどこまで鳴るのかを確認されていれば、他の装置の問題点もハッキリ解るだろうし、紛い物のアクセサリーに惑わされる様な事もない。
 
 とにかく無駄なお金を一切使って欲しくないのだ!チューニングで解決する物が殆どなのだから頂上さえ見えていれば、ご予算に応じて着実に一歩ずつ進んで行けば良いだけなのだから。
 
 5月には新店舗が完成する。お客様の笑顔を楽しみに、ジックリ構えて仕事をしたいものだ。

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