ハイエンドスピーカーの新時代到来

PIONEER S-1EX 定価¥525,000.-
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2005/10/13

先日、ハイエンドスピーカーの勢力図を塗り替えるであろう出来事を体験したので、報告がてら思うままに書いてみる事にした。

PIONEERというオーディオメーカーを知らないオーディオファンはまずいないだろう。
ただ、創業時がスピーカー専業メーカーだった事は若い人はご存知無いのではないだろうか?
世界的に見ても、同社の様にユニットからエンクロージャーまで自社生産できるメーカーは希少となっている。

ハイエンドの世界では高価なスピーカーがかなり存在しているが、それらの多くはアッセンブルメーカーであり、ユニットまで自社生産しているところは殆ど無い。
殆どがアジアで生産された低コストなユニットを使っており、精々既製のユニットに手を加えたり、材質を変更したりというのが実情なのだ。
私は何もそれが悪いと言っているのではなく、資本の少ない少量生産のメーカーにはその方法しか残されていないのが実情だと言いたいだけなのである。

ところが、昨年同社の別ブランドであるTADのM1を聴くにあたり、同社が大企業にしか出来ない事をやろうとしている事を知った。
切削(削りだし)により仕上げられた惚れ惚れする様なユニットを眺めるにつけ、これは只者ではないと思ったのである。
残念ながら、TAD-M1はエンクロージャーの製造に問題が有り、製造中止となってしまったが、M1の肝である同軸ユニットと同じ構想のスピーカーシステムを出すという話を聞いていた。

暫くしてプロトモデルが完成したとの連絡を貰い、目黒の本社へ出向いたのは確か7月だった。
無響室に鎮座していたスピーカーは、Wウーハーに例の同軸ユニットを配したトールボーイであり、誰かの言葉を借りれば、想定の範囲内の形をしていた。
しかし私は、どうせ大した事はないだろうとタカを括っていたのである。

責任者が現れるまで、それは非常に小さな音量で鳴らされていた。
果たして、その蚊が鳴く様な音に私の耳(脳)は反応したのである。
M1同様、これも只者ではない!恐ろしく位相が揃い、こんな小音量なのに超低域までアタックが揃っているではないか。
俄然やる気になった私は、自由にセッティングして良いとの了解を取り付け、車に戻ってクリニック用の材料を運んだのだった。


2005/10/17

まず、断わっておかなければならないが、私は無響室で音楽を聴いた経験が殆ど無い。
いや、むしろその様な空間にいる事自体が気持ち悪いので、避けていたと言った方が良いだろう。
以前は、異様な静けさである無響室自体が嫌なのだと思っていたのだが、今から考えるとどうやらそうでは無かった様だ。
つまり、出てくる音に位相ズレがありアタックの揃っていない音を聴かされたから、無響室が気持ち悪いと勘違いしていたのである。

それが証拠に、今回は全くその様な感覚はなく、眼前に広がる雄大なサウンドステージに心地良さを覚えたのだから。

さて、クリニック用グッズを担当者さんに手伝って貰い運び終った私は、振動処理から始める事にした。
スピーカーには台座があり、4本の足が伸びている先にスパイクという一般的な手法で処理されている。
3点でなければならない事は解かっている筈なのに、どのメーカーも4点支持に高さ調整機構を取り入れているのは何故だろうか?
私には、倒れた時の責任問題を逃れる為としか思えない。
メーカーのエンジニアは、その為に如何に貴重な音楽情報がスポイルされているか?を知るべきだ。

案の定、そのままで音を聴くと音場は2本のスピーカーの間にしか現れない。
ここで、試作が出来上がったばかりのVEBを3点で使ってみる事にした。
VEBは落ち着くのに時間が掛かるが、それでもいきなり音場が広くなり、現場の空気感が再現される様になった。
それにしても、恐ろしく素直な反応のスピーカーである。
「土と水」をかけて貰うと、天空からセミの声が降ってくる様になり、あの日の暑苦しさが蘇ってくる。

さて、次はケーブルだろうが、話を聞くと、同社は複雑な構造のハイエンドケーブルは使わないという思想らしい。
本当に何でもないケーブルが接続してあり、私はこのスピーカーが素直な音に仕上がっている要因の一つを垣間見た気がしたのである。

ならば、DENTECが効かない筈は無いと繋ぎ代えてみた。

果たして、これには同席した全員がビックリした。
余分な付帯音が無くなり、目前に展開されるサウンドステージの広さと実在感に、責任者まで驚嘆の声を上げてしまったのだ。
多分、田舎のガレージメーカーの製品に驚く姿を見せてしまった事に、後でしまったと思われたに違いない(笑)
私には、想定の範囲内を少しオーバーした程度だったが、このスピーカーの潜在能力の凄さとエンジニアの根性を見せ付けられた気がした。

これで、内部を銀線に張替えたら一体どうなるのだろうか?……


2005/11/14

10月になり、最終段階の製品を我社の試聴室で聴かせて貰う事になった。
幸い定休日だったので、邪魔も入らずゆっくり聴かせて貰ったが、やはり一段と完成度が上がっている。
まず特筆すべきは低音だ。
ローエンドの伸びは少し減った様に感じたが、開放感があり朗々と鳴る方向に変化している。
その旨を設計者に告げると、ウーハーのインピーダンス補正回路を外したと言う事だった。
周波数特性からみれば絶対にプロトの方が良い筈だが、あえて聴感を優先したとの事だ。
この辺りが、理詰めで作る今までの国産スピーカーと違うところではないだろうか?

フロアータイプが開放感を伴い朗々と鳴る! そういう鳴りっぷりの良さをこのサイズで実現したのだから凄い!
位相特性が揃い、各ユニットが邪魔をしない設計でなければ、絶対にこんなに開放感のある音にはならないのだ。
とっかえひっかえ様々なソフトを聴いてみたが、古い録音であっても全く古臭さを感じさせない見事な鳴りっぷりだった。

その時点で3セットをオーダーし、出来るだけ早く納品して貰う事にした。
久し振りに興奮する様なオーディオ製品に出会った気がする。


2005/11/17

遂にS-1EXが入ってきた。
オーダーが早かった所為か、販売店へは日本で一番らしい。

早速エージングに取り掛かり、これを書いている時点で100時間が経過している。
まず、鳴らし始めの第一印象だが全く煩い音はしなかった。
調度20時間が過ぎたころにASCの山本会長が来られたが、音場の輪郭が大きくローエンドが伸びない以外に特に不満はないとの事だった。
まず第一に音が明るく、エネルギーバランスが揃っているので、最新録音から古い録音までレンジがどうこうを意識せずに音楽として楽しめる。

75時間を過ぎたころに、WEのフルレンジを使われているASCのメンバーが来られた。
さっそく聴いてもらったが、中音の密度感が凄い!しかもレンジが広くスピーカーを意識させないと不思議がっていた。
その時、試聴位置から前にゆっくり移動して貰ったのだが、音像のところまで進むと恰もステージにいる様な感じとなり、
さらに進むと今度は後ろから音が聞こえてくるとビックリしていた。
余程位相特性が良くなければこんな鳴り方にはならず、流石の私もB&Wのオリジナルノーチラスでただ一度体験したのみである。

100時間が過ぎるとレンジはさらに広くなり、エージング開始時の音量が8db程低いボリュームで出る様になった。
通常のスピーカーでは、これくらいから高音が煩くなってくる筈なのだが、S-1EXはどうも違う様な気がする。


2005/11/24

どうやら、200時間でエージングは終了したが、S-1EXに関しては、通常のスピーカーの様にエージング終了前に高音が煩くなる事はなく、大きかった音場が引き締まりレンジが上下に伸びただけだった。
このスピーカーに関しては従来の常識が当てはまらないらしい。

そうこうしている内に、ASCの定例会第3土曜日がやってきた。
メンバーたちがこのスピーカーを見てそれぞれが口にした言葉は、思ったより背が高く斜めに傾いているので、設置に場所を取ると言う事だ。

そんな事より、今日はTAD-M1との比較という大胆な企画である。
方や既に定評のある600万円であり、方や出たばかりの100万円のスピーカーだ。
おそらく、こんな大胆な事を考えるのはASCのメンバーくらいのものだろう。

時間となり、まずS1-EXの方から聴き始めたのだが、それぞれが持ち寄ったソフトを聴く時だけ、ベストポジションへ座る事にした。

一時間半くらいで一通り聴き終わり、余りにも自然すぎてなんでもない音であり、現場の広さが手に取る様に解かるというのが大方の意見だった。
ただこの言葉の裏には、録音現場に立会い現場の音場を再現する事がどれだけ難しいかを痛いほど解かっている、ASCのメンバーならではの意味がある。

次にTAD-M1の出番だ。
流石にローエンドも十分に伸びており、凄い音がする!
ただ、やはり1EXと比べるとマルチウエイを意識させる鳴り方で、オーディオとしては面白いが音楽として楽しむのなら、絶対にS-1EXだという結論となった。

私は、次に入荷したS-1EXをチューニングする積りである。
通常のスピーカであれば、手を加えればこう変わるだろうという予測がつくのだが、1EXに関しては現状で不満点がないのだから全く予測がつかない。
ミンガスの井上先生曰く、自分の楽器の音をこれ程忠実に再現しているのを聴いたことが無く、特にウッドベースの前板と裏板の音色の違いを再生装置では聴いた事が無いとまで言わしめたのである。
私にはその音色の違いは認識できないが、もしスペースがあれば店に入れたいとまで真顔で話される様に、その事が如何に凄い事なのかを認識させて戴いた。

さて、次はチューニングだ。


2005/12/15

さて、次にS-1EXが入ってきたらチューニングをと手ぐすねして待っているが、中々入ってこない。
どうにも痺れを切らして、チューニングを開始する事にした。
一時聴けない事になるが、17日のASC忘年会に間に合わせる為には、やむ終えないだろう。

まず、常套手段のネットワークの外出しだが、振動や磁気の影響を排除するには有効な手段だ。
配線は勿論SSC-CMSであるが、自慢の磁気シールドは、スピーカーユニットからの直流磁気に対し、ここでも抜群の効果を発揮するだろう。

ここでの問題点は、3WAYシステムなのに入力端子が2組しか無いところだが、丁度良い間隔が開いているので全ての端子をBP-SCへ交換し、もう一組追加する事が出来た。

この時点で元のネットワークを接続すれば、磁気と振動の影響を確認できるからスーパークライオ処理から部品が戻り、組み立てが完成するまで試聴室で鳴らす事にした。

さてその音だが、流石のSSC-CMSも半田付け直後では高音が煩く、音場も乱れている。
しかし、ユニットとネットワークのエージングが既に終わっている為、体験した事のないスピードでどんどん変化し、一曲を聴き終わる頃にはバランスが整ってきた。
3曲目からはスピーカーより外側へ音場がどんどん広がり、気持ち悪い程のリアリティーが出ている。
やはり、ネットワーク外出しのメリットは大きく、S/Nの向上には目を見張るものがあった。

但し、このレポートにおける私の表現は、クロック交換 電源のノイズ対策 振動対策 磁気対策などを行った上での事であるから、ただスピーカーを弄くっただけで同様の結果が得られると勘違いしないで欲しい。

今更言うまでもないが、オーディオは接続している機器や様々な対策によるトータルでその再現能力を如何なく発揮する。
一般的な手法では、機器が持つ癖を隠す為に安直なアクセサリーなどを使って誤魔化すが、そんな事をやっていたのではいつまで経っても終わりは無い。
そんな物で誤魔化せるほど音楽ファンの耳は甘くないのだ。

しかしながら、誤魔化しを全く行っていない弊社の試聴室では、僅かな癖さえもハッキリ暴露してしまい、結局自分自身にとっても本当に諸刃の刃なのである。
商売をしていれば、営業的に売りたい物や、心情的に売ってあげたい物も沢山あるが、私は25年間突き詰めてきた現在の試聴室で、値段相応に鳴らないものを売る気にはならない。
今までもそうであったし、これからもそうする積りだ。
商売が下手なのかも知れないが、一軒くらいはそんな店があっても良いと思っている。

その内日の目を見る時もあるだろうと、妥協せずにやってきたところにS-1EXとの出会いがあり、パイオニアが遂にやってくれたという思いで一杯だ。

だから今は、ノーマルの状態で厳しい条件の試聴室をクリアーした、S-1EXの可能性を見極める事に専念しよう。


2005/12/22

定例会(忘年会)の第三土曜日がやってきた。
通常月であれば週末に出張に出る事が多いのだが、今回はメンバーがS-1EXを聴いた反応を確認したいので、日曜日の早朝に出る事にしていた。
しかし、大雪が降るとの天気予報に、断腸の思いで土曜日の昼間に関東へ出発する事となった。
仕事としては大正解で、翌朝の高速道路は通行止めで神戸から参加したメンバーは、帰りに広島県を抜けるのに5時間も掛かったらしい。

私の代わりに会長の山本紘市氏からレポートを戴いたので記載するが、ノーマルの評価はまだエージングが十分では無かった状態だと記憶している。

■S-1EXのノーマル状態の問題点
良いところは一杯ありますが・・・悪いところを挙げると
1.45Hz以下が聴こえないが25Hzまでは最低伸ばしたい
2.中低音の響きに音だまりがある
3.中音域の上の帯域に鳴きが集まり音量を上げるとうるさい
4.高音域が穏やか過ぎるので締まらない
5.輪郭がはっきりせず緩みがちで全ての音像が大きく感じる
6.口の中の発声の発音場所が正しくないし定まっていない
7.音色の時間的変化に対するグラデーション情報が欠落している
8.楽器のテクスチャーが掴みにくい
9.大雑把で大掴みな音の出方がする
10.100dBを超えて音量を上げると音色が変わってしまう

■ノーマル状態で問題を感じた以上の点が
a:オリジナルネットワークを外出しにした
b:内部配線を銀単線に交換した
aとbの主な変更点で以下のように変化した。
3の問題のみほぼ満足したがその他の点で言うと
・SN比が向上している・音場が格段に拡がった・付帯音が随分減った。

さて、SC処理から部品が戻り、ネットワークの完成も近い。
あのS-1EXがどう化けるか楽しみだ。


2005/12/24

やっとネットワークが出来上がった。
コイルは全て2φの空芯 コンデンサーはフランス製SOLEN 抵抗はDALEの無誘導巻線 配線材は2φ銀線と常套手段だ。
言うまでも無く、全てのパーツにSC処理を施してある。
通常なら1箱で組み立てるのだが、部品点数が多くコイル同士の干渉を考慮して低音と中高音用に分ける事とした。

まず、取り付けて直ぐの印象だが、明らかに情報量が多い。
聴き慣れたサラボーンの声が非常に艶やかで、あたかもそこで唄っている様だ。
また、バックのギターがこれ程ハッキリ聴こえるなんて、まるで高能率のホーン型でない限りありえない。

これからエージングが進むにつれ、この素晴らしいバランスは一旦滅茶苦茶に崩れる。
今回は電気的なエージングだけだから、まともな音になるのは今年最後の営業日12月30日だろう。

最近、このコラムを読んで様子を見に(聴きに)来られるお客様が増えているが、第一印象は非常に大事なので出来れば来年1月5日以降に来店して戴ければ有り難い。

自慢の振動処理ベースVEBを取り付ける為の3点支持用金具は、既に試作が終わっており出番を待っている状態だが、エージングが終わった時点で取り付けたいと思う。
また、ノーマルの音で十分だと言われるお客様の為に、S-1EX専用アクセサリーとして販売する予定なので、さらに正確な音場と分解能をお望みであれば、ビックリされる程の効果にご期待いただきたい。


2006/1/6

新年早々エージングが終了した。

いつもの事だが、癖の少ない製品ほどエージングの過程では本当に滅茶苦茶な音になる。
経験の少ない人ほど、余りの聴き辛さに耐え切れず安直なアクセサリーに走り疑心暗鬼に陥ってしまうものだが、自ら底なし沼に入り込んでしまうのだけは、絶対に止めて欲しい。
「聞き辛い音なら聴かなければ良いではないか!鳴らしておくだけで時間が解決してくれるのだから」

初日の5日に間に合う様に専用金具のVEBを取付け、ネットワークに玉砂利を充填した。
さて、その音だが・・・

とにかく自然!!!それに尽きる。電気を通して何でもない音を出す事がどれだけ凄い事か・・・
オーディオ遍歴の長い方ほど、この凄さに驚かれるだろう。
何せ、いきなり部屋の壁が無くなり「そこにライブの現場が現れる」のだ。

つい先日まで、私自身もノーマルの仕上がりが良すぎて想像すら出来なかったレベルだ。
やはり、上には上があった!!
これが最高だとは言わない。しかしこれ以上の音が必要なのか?を私は問いたい。

S-1EX/DENTECは日本中どこから聴きに来られても、絶対に損は無いと言い切れる!!
これを聴かずしてスピーカーを語る事無かれ!と言えばオーバーだろうか?

どうぞお好きなCDを持って広島までお出かけください。
歓迎いたします。


2006/2/9追記

おわり としておきながら、今までと余に違うお客様の反応や音質の変化があったので、報告させて戴く事にする。

先日エージングの完了したS-1EX/FULL TUNEDを車に積んで関東へ出掛けた。
まずは群馬のTさんだが、この方はアクースタットを長年愛用されており、ご自宅を新築されたのを機に装置のリフレッシュを行ないたいとのご要望で、昨年10月にENTEC製スーパーウーハーのエッジ張替えを実施されてからお付き合い戴いている。
11月末にクリニックを兼ねてお伺いしたのだが、IPT1000Anを試聴して戴いてからは、ナカミチ1000mbのクロック交換に始まり、D/Aコンバーターのチューニング TRC-A CMSケーブルと矢継ぎ早に導入して戴いた結果、一般常識では頭を動かすと音場が動き、椅子に体を縛りつけて聴かなければならない様なアクースタットから、左右に移動しても音場が動かない見事な音場にまで仕上がっていた。

しかし、Tさんは20年近く愛用されているアクースタットの劣化を懸念され、私が余にもホームページで騒いでいるのも相まって、一度S-1EXを自宅で聴いてみたいと要望されたのだ。
コンデンサー型平面スピーカーを愛用されている方が、ダイナミック型スピーカーの音に満足される事はまずありえない。
無駄足になるのは覚悟の上で、ご要望にお答えする事にした。

果たして、スピーカーとパワーアンプ以外はDENTECで固めてあるので、かなりのレベルで鳴るだろうと予想はしていたが、いきなりスピーカーが消えリアルな音場が現れたのには、持って行った私自身が1番驚いてしまった。

これは置いて帰れないんですよね?・・・と訊かれるTさんへ、エージングの効いたのを置いて帰ると商売になりませんからと答え、返す言葉でオーダーを戴いてしまった。

さて次は、埼玉のIさんだ。
Iさんには既にノーマルを使って戴いており、チューニングによる音質差を確かめて戴く事になる。
しかし、全く心配はしていない。
スピーカー以外はDENTECで固めてあり、楽勝で鳴る筈だ。
群馬で気を良くした私は意気揚揚と出向いていった。

果たして、DENTECチューンドは予想以上に鳴り捲った。
いきなり前後左右の壁が無くなり、それぞれのソフトが録音された現場が現れる。
音色は緻密で正確無比、ローエンドもノーマルより伸びており、一発で決まってしまったのだ。

スリムとは言え、こんなでかいスピーカーを1000Kmも車で運び、試聴に持ち歩くなんて同業者から見れば正気の沙汰とは思えないだろう。
しかし、現代の製品でそこまで惚れ込める物がこれ以外に有るだろうか?
お客様にも喜んで頂き、こちらも充実感や達成感を得られる様な製品・・・
それが、私にとってS-1EXなのだ。

さて、凄耳のASC会長より、フルチューニングでも満足できない部分が指摘されている。

「楽器に触れる手元や指使いの接点エネルギーがいまいち希薄で充分定位しませんし、音が鳴った際の楽器のスケールや全体像が演奏から見えてきません。
鳴っている音だけが存在し演奏が見えないのです。
もう少しアタック音が強調されれば輪郭がくっきりとし、その辺が改善されるのかもしれませんが、今のままでは楽器が鳴っているのであって人が演奏しているように聴こえないのが残念な点です。
人が演奏し、その行為が楽器に伝わり音が拡がって行き部屋に響いて行くと思うのですが、最初が不在なのですね。」

という事なのだが、一般の人でそんなところまで問題にする人はいないだろうが、まだやってない事があるので最後の止めを実行する事にした。
それは、エッジの張替えである。
4本のウーハーを取り外し、エッジをセーム革に張り替える・・・ただそれだけの事なのだが、オリジナルはゴムのギャザーエッジであり、ゴム特有の付帯音を持っている筈だ。

果たして、やはりチューニングモデルの問題点はここだけであった。
凄まじい変化を遂げたのだ!!!
今までに聴きに来られた方には、是非再度聴いて戴きたい。
なんと柔らかい 何と自然な 何と雄大な 何とリアルな
貴方は、この最終モデルを聴いてどんな言葉を発するだろうか・・・

■今度こそ 終わりです■

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