T様は二十数年前に購入されたJBL4343AWXを現在でも愛用されている。
メンテナンスも2度行われ、最初はメーカーでアッセンブリー交換、2度目はわざわざ山形県のO社までエンクロージャーごと送られ、トータルなメンテナンスを行われたらしい。
広島市内から一時間余りの山間部にログハウスを建てられ、そこで週末毎に奥様と命の洗濯を行われているのだが、
どうも思う様な音が出ないというご相談を一昨年の冬に戴き、それではと、クリニックにお伺いする事にした。
標高が600mもありスキー場の近くだから、やはり冬場にお伺いするのは大変だった。
IPT1000Anなど重い物を、雪の坂道に息を切らせて運び込み、リスニングルームに入ると木の匂いに一瞬ホッとした。
ログハウスといっても丸太作りでは無く、無垢材の部屋はむしろ丸太より響きも良く、この部屋なら必ず良い音が出ますよと宣言する。
こんな事が言える様になったのも、色々経験を積んできた最近だが、CDプレーヤー プリアンプ パワーアンプは少し古いA社の中級クラスだが、まず問題はないだろう。
JBLを使われているお宅の大半がスピーカー端子の赤をアンプのプラスに繋がれているが、高橋様も例外では無く、JBLはごく最近の物を除いて逆位相であると説明して黒プラスに繋ぎ代えた。
ところが、振動対策のVES+ST-BASE 銀線ケーブルCMSシリーズ 電源ノイズ対策のIPT1000Anと色々な対策を行っても、意に反して思う様な結果が出ない。
どうも、どこかに重大な問題が潜んでいる様だ。
その原因が接触不良だと睨んだ私は、まず4343のウーハーを取り外した。
何と、マルチとシングルアンプの切り替えスイッチが、接触不良を通り越して真っ黒けではないか!
銀メッキの接点も、これだけ黒く腐食していたら接触不良による付帯音を発生し、使い物にならない。
しかし、エンクロージャーごと送ってメンテナンスを受けられたのに、この有様は一体何だ!?
全く触った形跡も無い・・・ こんな同業者が存在するなんて全く信じられないと私は憤慨した。
とりあえず、当日は振動対策とケーブルを導入して戴き、スピーカーのチューニング クロック交換 電源ノイズ対策と、追々に実行されたいとのご要望だった。
そして昨年の暮れ、かなり満足できる状態になった高橋様から、再度電源の試聴を行いたいと電話を戴いた。
しかし、この冬は異常に雪が多く、結局お伺いできたのは2月下旬となってしまったのである。
今回は様々な対策が功を制し、アモルファス電源の威力が如何なく発揮され、クラシックからジャズまで聴かれる高橋様も、多彩な音色の表現と音場感に満足されたご様子だった。
後日、オーダーを戴いたIPT1000Anの納品がてら、新製品のDZPとUA-J1を試聴して戴く事となった。
ここまで来ると結論が出るのは早く、即答でパワーアンプの最新ディジタルアンプへの改造をご依頼戴いた。
この写真は改造パワーアンプとTRC-Aをセットした状態であるが、あの4343から漂う様な余韻と艶やかな弦が再現されている。
また、一転してJAZZになるとそこに楽器があり、人が立って演奏している気配まで出てくるのだ。
やっとT様が望まれていた理想の音を、4343から再生できた様に思う。
道のりは長かったが、これが4343か!?という音を手に入れられて、もう傷むところが無くなったこのシステムから心行くまで音楽を楽しんで頂きたいという思いと、私を信用し大金を叩いて戴いた事への責任を果たせたという安堵感から、
いつになく爽快な気分で早春の中国山脈を後にした。
ところで、音には関係の無い話だが、4月からのPSE問題に先立ち、このアンプには絶縁試験を行い当社のPSEシールを貼り付けた。
電源とシャーシーのみ残してここまで改造すれば、中身は全く別物であり、故障したとしてもメーカーへ出す訳には行かない。
弊社が後の責任を負うのは当然の話である。
By 藤本